退職代行サービス業者は弁護士法に違反とする裁判例はあるか
退職代行サービス業者が違法であるかどうか、2019年5月現在、明確な裁判例は無いようです。
ただし、インターネットの記事の削除を代行する裁判例があります。
この裁判例によれば退職代行サービスの多くは弁護士法に違反するという判断が下されると思います。
【事件番号】東京地方裁判所判決/平成28年(ワ)第299号
【判決日付】平成29年2月20日
主文
1被告は、原告に対し、49万8750円及びこれに対する平成28年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2原告のその余の請求を棄却する。
3訴訟費用は、これを23分し、その1を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
4この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、1149万8750円及びこれに対する平成28年2月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
本件は、原告が、論文捏造事件に関与したとの事実を摘示して原告の名誉を毀損すると原告が主張する別紙ウェブサイト一覧表の各ウェブサイトに掲載された各記事(以下、各記事それぞれを掲載されたウェブサイトごとに「本件記事1」などといい、これらを合わせて「本件各記事」という。)を削除するための業務を被告に依頼する旨の契約〔以下、本件各記事に係る契約を合わせて「本件契約」という。〕を締結したところ、本件契約は弁護士法72条本文に違反するため無効であると主張して、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき、本件契約に基づいて支払った代金49万8750円及びこれに対する訴状送達の日である平成28年2月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告が原告を弁護士法違反行為に加担させたこと及び原告から適切な権利行使の機会を奪い、本件各記事の削除ができない状態を継続させ、原告の人格権侵害状態を継続させたことが原告に対する不法行為に当たると主張し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円の合計1100万円並びにこれに対する不法行為後の日であり、訴状送達の日である平成28年2月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(特に明記しない限り、枝番の表記は省略する。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者(甲1、弁論の全趣旨)
原告は兵庫県在住の医師であり、平成18年頃、大学の医学部生であった。被告は、インターネット全般に関する調査及びコンサルティング業務等を目的とする株式会社であり、弁護士法人ではない。被告は、平成24年頃、「誹謗中傷クリーニング」と称し、インターネット上におけるネガティブ情報への対処を業として行っていた。
(2)本件契約の締結(甲1、弁論の全趣旨)
原告は、平成24年及び平成25年頃、被告との間で、原告が大学の医学部生であった平成18年頃に論文捏造事件に関与したとの事実を摘示して原告の名誉を毀損すると原告が主張する本件各記事を削除するための業務を被告に依頼する旨の契約(本件契約)を締結した。
(3)本件記事1ないし10について(弁論の全趣旨)
ア 削除
その後、本件記事1ないし10のうち、原告が被告に対して削除を依頼した部分は、各ウェブサイト上から削除された。
イ 代金の支払
原告は、平成26年5月頃までの間に、被告に対し、本件記事1ないし10の削除を求めた部分の削除業務に係る代金として合計49万8750円を支払った。
(4)本件記事11ないし13について(甲1、7、弁論の全趣旨)
ア 削除依頼の撤回
被告は、平成25年2月28日頃、原告に対し、本件記事11ないし13について、被告においては原告が削除を求める部分の削除をすることができない旨通知した。これを受け、原告は、被告に対する当該部分に係る削除の依頼を撤回した。
イ 本件記事11の削除に係る仮処分決定
原告は、平成25年に、東京地方裁判所に対し、本件記事11が掲載されたウェブサイトの運営者であるA株式会社を債務者として、本件記事11を含む四つの記事について、仮に削除する旨の仮処分命令を申し立てた。同裁判所は、同年9月27日、原告の申立てを相当と認め、仮処分決定をした。その後、A株式会社は、同申立ての対象記事を削除した。
ウ 本件記事12及び13の消去
本件記事12及び13については、その後、サイト自体が閉鎖となり、記事も消去されている。
(5)弁護士法72条の定め
弁護士法72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)には、以下のとおり定められている。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
(1)本件契約が弁護士法72条本文に違反するか(争点1)
【原告の主張】
ア「法律事件に関して・・・法律事務」を取り扱ったことについて
本件契約の目的は、原告が論文捏造事件に関与したとの事実を摘示して原告の名誉を毀損する本件各記事を、ウェブサイト上から削除することにある。本件契約におけるウェブサイト上の記事の削除手続の性質は、原告が有する人格権に基づく妨害排除請求権としての削除請求権の代理行使である。
弁護士法72条本文前段の「法律事件」とは、法律上の権利義務に関し争いや疑義がある案件をいうところ、削除請求権の行使は、削除依頼を受ける側の表現の自由と真正面から対立することとなり、必ずしも紛争なく成功するものではなく、削除請求の相手方の対応によっては任意交渉が生じるものであって、現に、本件各記事の中には、被告がその削除に失敗しているものも含まれるから、権利義務に関し疑義がある案件である。また、上記のとおり、被告の行為の性質は、原告が有する人格権に基づく妨害排除請求権としての削除請求権の代理行使であるから、「法律事務」に当たる。
そのため、被告は、業として、「法律事件に関して・・・その他の法律事務」を取り扱ったといえる。
したがって、弁護士法人でない被告が、原告から依頼を受けて本件各記事を削除することを内容とする本件契約は、弁護士法72条本文前段に違反する。
イ「周旋」について
さらに、本件記事10については、被告は、原告に対し、同記事の削除業務をB弁護士〔以下「B弁護士」という。〕に対して委任する旨の委任状の作成を求め、原告はこれに応じて委任状を作成し、同委任状に基づいて、B弁護士の名義によって削除業務が行われた。
したがって、弁護士法人でない被告が、「法律事務」の「周旋」を業として行ったといえるから、本件契約は、弁護士法72条本文後段にも違反する。
【被告の認否反論】
本件契約が弁護士法に違反するとの主張は争う。
ア 「法律事件に関して・・・法律事務」を取り扱ったことについて
本件各記事の削除のために被告が行った行為は、別紙削除フォーム1ないし3のような各ウェブサイト上に設けられた通報用のフォームを用いて、ウェブサイトの管理人に対して「ウェブサイト上に投稿されたコメントにより迷惑を被っている」旨の情報を提供し、削除を依頼しただけである。
被告の情報提供・削除依頼行為は、ごく単純かつ画一的に行われるものである以上、法律的な専門知識に基づいて資格者が行うのでなければ当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになる行為ではないから、「法律事件」に関する「法律事務」に当たらない。
特に、元のサイトにある記事をプログラムによって自動でコピーし、同一のものを自己のサイトにおいて表示しているにすぎないミラーサイトに掲載された記事に係る削除方法は、別紙削除フォーム2のような「自動削除申請フォーム」にメールアドレス、URLおよび文書番号を入力して送信ボタンを押し、自動返信されてきたメールの中のアドレスをクリックしてリンク先にアクセスするというもので、単純かつ機械的に処理が行われる。このような作業は、弁護士でなければ代理できないようなものではないから、「法律事務」に当たらない。そもそもミラーサイトは、上記のとおり、元のサイトにある記事をプログラムによって自動でコピーし、同一のものを自己のサイトにおいて表示しているにすぎないから、このようなコピー行為を、民主主義政治を支える基盤である表現の自由だとすることが果たして妥当であろうか、疑問である。
また、本件記事10は、何ら権利侵害性について争いまたは疑義を生じることなく削除されているから、本件記事10に係る業務は「法律事務」に当たらない。
イ 「周旋」について
被告は、原告及びB弁護士のいずれからも周旋の依頼を受けておらず、たまたま、本件記事10について無償で削除の申請をしてくれるB弁護士が見つかったため、B弁護士に対して削除業務を委任する旨の委任状交付を手伝ったものにすぎず、「周旋」に当たらない。
また、被告に反復継続の意思はないから、業務性もない。
(2)被告の原告に対する不法行為の成否(争点2)
【原告の主張】
ア 弁護士法違反行為に加担させたこと
被告は、本件契約の締結に際し、原告に対して、本件契約が弁護士法に違反するものである旨の説明をしなかった。また、本件記事10の削除業務をB弁護士に委任する旨の委任状を作成した際も、弁護士に対する委任状を作成する理由等について、説明をしなかった。
そのため、原告は、それが弁護士法に違反するものであることを認識せずに、本件契約を締結させられ、刑事罰の定めもある、重大な犯罪行為である弁護士法違反行為に加担させられ、遵法意識を傷つけられ、精神的苦痛を被った。
イ 適切な権利行使の機会を奪い人格権侵害状態を継続させたこと
被告は、本件記事11ないし13を削除することができなかった。その旨の通知を受けた原告は、本件記事11の削除について、原告代理人弁護士に相談した。その後、原告は、同弁護士を代理人として、本件記事11が掲載されたウェブサイトの運営者を債務者とする、本件記事11を仮に削除する旨の仮処分命令を申し立てた。そして、その旨の仮処分決定を受け、ウェブサイトの運営者は本件記事11を削除した。
被告が自己の利益を図るために原告と本件契約を締結し、本件記事11の削除業務を受注したことで、原告は、被告に依頼すれば本件記事11が削除されるものと誤認し、適切な時期に仮処分命令を申し立てるなどして権利を行使することができなかった。仮に被告による行為がなければ、原告は適切な時期に弁護士に依頼し、仮処分命令を申し立てることで、より早期に本件記事11の削除を行うことができた。
したがって、被告の行為により、本来は削除できるはずの原告の人格権を侵害する記事の削除をすることができない状態が約4か月継続し、その間、原告は大きな精神的苦痛を被った。
ウ 小括
上記ア、イの被告の行為により原告が被った精神的苦痛の慰謝料等は、1000万円を下らず、原告は、本件訴訟追行のため、弁護士費用として100万円を要した。
したがって、被告は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、1100万円を支払う義務がある。
【被告の認否反論】
被告に不法行為が成立することについて、否認ないし争う。
ア 弁護士法違反行為に加担させたとの主張について
原告は、本件契約締結に際し、被告に対し、論文捏造事件に関与していないと虚偽を述べ(なお、原告が論文捏造事件に関与したことは、原告が指導教授らを被告として訴えた別件の損害賠償請求事件において明らかとなっている。)、積極的に本件各記事の削除業務を依頼したものであるから、本件契約を締結したことによって発生したと主張する精神的損害について、被告が賠償責任を負うことはない。
イ 適切な権利行使の機会を奪い人格権侵害状態を継続させたとの主張について原告が本件契約を締結した後、原告が、弁護士に対して、別途、本件各記事の削除業務を依頼することは、本件契約上何ら妨げられていないから、本件契約の締結と人格権侵害状態が継続したことによる精神的苦痛との間に因果関係はない。
ウ 小括
原告主張の損害額については争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実のほか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)原告の被告に対する問合せ(甲1)
原告は、平成24年9月頃、被告に対し、メールで、原告が大学の医学部生であった平成18年頃、自身が論文捏造事件に関与したとされ、インターネット上で誹謗中傷を受け、現在でも、原告の名前を検索すると、捏造に関連するページが表示されることについて、「(原告の氏名)、捏造」などのキーワードを、大手検索エンジンであるAやCでの検索結果から除くように対応してもらうことが可能かどうか及びその場合の報酬の見積りについて問い合わせた。
被告担当者は、平成24年10月9日、原告に対し、原告が削除を求める情報が掲載されているホームページを複数挙げ、そのうち、本件記事11の削除業務の代金として20万円(税別)、ミラーサイトである本件記事1、2及び12の削除業務の代金として各5万円(税別)の見積りを示した。
(2)本件記事1、2及び12についての削除依頼等(甲1、2、弁論の全趣旨)
ア 削除依頼等
原告は、平成24年10月13日、被告に対し、本件記事1、2及び12の三つの記事の削除を依頼した。
被告担当者は、平成24年10月15日、原告に対し、正式な御見積書兼申込書、業務委託契約書及び秘密保持契約書(それぞれ2部)を送付するので、業務委託契約書及び秘密保持契約書に氏名を記入し、捺印した上で、各1部を被告に返送するよう伝え、原告は、翌日、被告に対して、指示された書類を送付した。
イ 代金の請求及び支払等
その後、本件記事1及び2は削除され、被告担当者は、平成24年10月26日、原告に対し、本件記事1及び2の削除が成功した旨のメールを送信した。
そして、被告担当者は、平成24年11月6日頃、原告に対し、本件記事1及び2の削除業務に係る代金の請求書を送付し、原告は、同月8日、被告に対し、10万5000円を支払った。
ウ 削除依頼の撤回等
被告担当者は、その後、原告に対し、本件記事12は被告において削除することができない旨通知した。これを受け、原告は、本件記事12の削除依頼を撤回した。本件記事12は、その後、サイト自体が閉鎖となり、記事も消去されている。
(3)本件記事11についての削除依頼等(甲1、弁論の全趣旨)
ア 削除依頼等
原告は、平成24年10月28日、被告に対し、本件記事11の削除を依頼した。被告担当者は、平成24年10月29日、原告に対し、本件記事11の削除業務の代金として20万円(税別)の見積りを示し、本件記事11が掲載されたウェブサイトの運営者に対する削除申請に当たって必要となる原告の身分証明書等のコピーを、被告に対して送付するよう案内した。また、本人から削除を依頼する形式が有効であるとして、削除申請書は原告名義で作成する旨伝えた。
イ 被告が行った削除業務
被告担当者は、平成24年12月17日、原告に対し、本件記事11について、「現在□□側への、削除依頼を行っております。過去に2回申請したところ、弊社申請の論理では削除出来ないということでしたので、別の切り口から現在3回目の申請をかけています。」、「今回の削除申請が申請却下となった場合には、X1様からの申請という形をとらせて頂きたいと考えております。」とのメールを送信した。
ウ 削除依頼の撤回
被告担当者は、その後、原告に対し、本件記事11について、「削除申請を出しておりますが、削除されておりません。弊社の力不足にて結果が出せておらず申し訳ありません。こちらに関しては、弊社では難しいと感じており、ご依頼を解除させて頂きたいと考えております。」とのメールを送信した。これを受け、原告は、本件記事11の削除依頼を撤回した。
(4)本件記事10についての削除依頼等(甲1、2、5、乙11、弁論の全趣旨)
ア 削除依頼等
原告は、平成24年12月28日、被告に対し、本件記事10の削除を依頼した。被告担当者は、平成24年12月28日、原告に対し、本件記事10について、「こちらに関しては【D】というサイト△△ミラーサイトなのですが全体を一度に消すことが出来ません。書込内容の中で問題箇所だけを削除する形となります。」、「場所の特定と、それに伴う見積書を後日、ご連絡いたします。」とのメールを送信した。
イ 被告が行った削除に向けた業務等
被告代表者は、平成25年1月頃、行政書士であるE某(以下「E行政書士」という。)に対し、本件記事10を削除する方法について相談した。
その後、E行政書士からB弁護士の紹介を受け、被告担当者は、平成25年1月29日、原告に対し、本件記事10について「今回は難易度が高い為、弊社パートナーの行政書士にて削除申請をさせて頂きたいと考えております。」、「上記サイト(注:本件記事10)全体削除はやはり難しいという見解でした。」、「そして、X1様に関係する〈名前〉が記載されている箇所の削除ということで宜しければ承ることが可能です。」とのメールを送信し、それらの箇所の削除業務の代金として7万円(税別)の見積りを示した。原告は、被告の示した内容を了承し、改めて、被告担当者が指摘した部分の削除を依頼した。
被告担当者は、平成25年1月30日、原告に対して、E行政書士及びB弁護士の委任状のひな型を送付し、それらに記入、押印した上で被告に返送するよう案内した。原告は、その後、被告に対し、被告担当者の指示に従って書類を送付した。
B弁護士は、本件記事10が掲載されたウェブサイトの運営者に対し、原告から委任を受けた代理人弁護士として、本件記事10のうち、原告が削除を求めた部分の記載により、原告の名誉権が侵害されているため、人格権に基づく妨害排除請求権としての公開差止請求権により当該部分の削除を求める旨のメールを送信した。その後、本件記事10の削除対象部分は削除された。
ウ 代金の請求及び支払
被告は、平成25年2月6日、原告に対し、本件記事10の削除対象部分の削除が完了した旨報告した。その後、原告は、被告に対し、被告から請求された代金を支払った。
(5)本件記事13についての削除依頼等(甲1、弁論の全趣旨)
ア 削除依頼
原告は、平成24年12月28日、被告に対し、本件記事13の削除を依頼した。
イ 削除依頼の撤回等
被告担当者は、平成25年2月28日、原告に対し、本件記事13について、「1(注:本件記事11)と同様に削除依頼をかけておりますが、削除に至っておりません。こちらも弊社では難しいと考えております。」とのメールを送信した。これを受け、原告は、本件記事13の削除依頼を撤回した。
本件記事13は、その後、サイト自体が閉鎖となり、記事も消去されている。
(6)本件記事6、7及び8についての削除依頼等(甲1ないし4、乙7ないし9、弁論の全趣旨)
ア 本件記事7及び8の削除依頼等原告は、平成25年2月27日頃、被告に対し、本件記事7及び8の削除を依頼した。被告担当者は、平成25年2月28日、原告に対し、本件記事7の全体を削除することは難しいが、原告の氏名記載部分のみであれば、削除することができるかもしれない旨伝え、まずは記事全体の削除を申請し、成功しなかった場合は、氏名記載部分を削除するという内容の削除業務の代金として7万円(税別)の見積りを示した。
被告担当者は、平成25年8月1日頃、原告に対し、改めて、本件記事7及び8の削除業務の代金として各5万円(税別)の見積書を送付した。
イ 本件記事6の削除依頼等
原告は、平成25年7月28日、被告担当者に対し、本件記事6の記事全体又は原告の氏名記載部分の削除について問合せのメールを送信した。被告担当者は、同月29日、原告に対し、本件記事6のうち原告の氏名が含まれた部分の削除業務の代金として5万円(税別)の見積りを示した。
原告は、平成25年7月29日、被告に対し、本件記事6のうち、被告担当者が示した部分の削除を依頼した。被告担当者は、見積書兼発注書を送付するので、記入、押印した上、被告に対してファックスで返送するよう案内し、上記削除対象部分の削除申請を同日中に行うので、早ければ同日中、遅くても次の週の週末までには、削除することができると思われる旨メールで送信した。
ウ 被告が行った削除業務
被告担当者は、本件記事6及び7が掲載されたウェブサイトの運営者に対し、同運営者がウェブサイト上に設けている問合せフォーム(別紙削除フォーム3)に、名前、メールアドレス、本件記事6及び7のURL及びレス番号、削除を依頼する理由等を記載して、送信した。
また、被告担当者は、平成25年8月1日、本件記事8が掲載されたウェブサイトの運営者に対し、同運営者がウェブサイト上に設けている削除依頼フォームに、「X1と申します。削除依頼の件でご連絡させていただきました。」、「URL:(中略。本件記事8のURL)」、「スレッド内容が個人を中傷するものですので、何卒スレッド全体の削除をお願いいたします。」と記入し、記載内容を送信した。
エ 代金の請求及び支払
平成25年7月31日頃までの間に、本件記事6の削除対象部分が削除され、被告担当者は、同日、原告に対し、本件記事6の削除業務の代金として5万2500円(税込)の請求書を送付した。原告は、同年8月6日、被告に対し、同額を支払った。
被告担当者は、平成25年8月31日頃、原告に対し、本件記事7及び8の削除業務の代金として合計10万5000円(税込)の請求書を送付した。原告は、同年9月11日、被告に対し、同額を支払った。
(7)本件記事3ないし5及び9についての削除依頼等(甲1ないし4、乙4ないし6、弁論の全趣旨)
ア 削除依頼等
原告は、平成25年7月28日頃、被告担当者に対し、本件記事4の削除の可否について問い合わせた。被告担当者は、同月29日、原告に対し、本件記事4のうち原告に関する情報が記載されている部分の削除業務の代金として5万円(税別)の見積りを示した。 原告は、平成25年7月29日、被告に対し、被告が示した部分の削除を依頼した。被告担当者は、見積書兼発注書を送付するので、記入、押印した上、被告に対してファックスで返送するよう案内し、上記削除対象部分の削除申請を同日中に行うので、早ければ同日中、遅くても次の週の週末までには、削除することができると思われる旨メールで送信した。
また、原告は、平成25年8月7日頃、被告担当者に対し、本件記事3、5及び9の削除について問い合わせ、被告担当者は、それに対し、その三つの記事の削除業務についての見積書を送付した。
イ 被告が行った削除業務
被告担当者は、本件記事4及び5が掲載されたウェブサイトの運営者に対して、同運営者がウェブサイト上に設けている「自動削除申請フォーム」(別紙削除フォーム2)に、被告のメールアドレス、削除対象URL(削除を求めるスレッド自体のURLまたは△△の元のスレッドのURLのいずれか)及び削除文章番号を記載したメールを送信し、被告のアドレスに返信されたメールに記載されたリンク先にアクセスした。それにより、本件記事4及び5は削除された。
ウ 代金の請求及び支払
被告担当者は、平成25年7月30日、原告に対し、本件記事4の削除対象部分の削除が完了した旨報告した。その後、原告は、被告に対し、代金として5万2500円を支払った。
また、被告担当者は、平成25年8月31日、原告に対し、本件記事3、5及び9の削除業務の代金として合計11万0250円(税込)の請求書を送付した。原告は、同年9月11日、被告に対し、同額を支払った。
(8)被告名で作成された削除業務に関する書類(乙2)
被告名で作成された「ミラーサイト対策の注意事項」と題する書面が証拠として提出されているところ、この書面には、注意事項として以下のような記載がされている。
1、メールは、匿名のフリーメールアドレスを使う
2、法的な論拠を主張するのではなく、中傷で困っている状況を伝える判断、説得、反論はしない事。
また、上記書面には、レスやスレッドの削除を求める場合の文章の参考として、以下のような記載がされている。
【レス削除】
このサイトのレスに中傷に相当する内容が含まれていますので
お手数ですが、指定のレスの削除をお願いします
レス番号
【スレッド削除】
このサイトのレスに中傷に相当する内容が含まれていますので
スレッドの削除をお願いいたします。
URL
2 争点1(本件契約が弁護士法72条本文に違反するか)について
(1)弁護士法72条本文前段の成立要件について
弁護士法72条本文前段は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、業として、法律事件に関する法律事務を取り扱うことを禁止するところ、前提事実(1)のとおり、被告が弁護士法人でないことは明らかであるので、その他の要件について検討する。
(2)「法律事件」について
弁護士法72条本文前段にいう「法律事件」とは、法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件をいうと解される。
本件契約は、原告が、被告に対し、原告が論文捏造事件に関与したとの事実を摘示し、原告の名誉を毀損すると主張する本件各記事をウェブサイト上から削除するための業務を依頼するものである。そのため、ウェブサイト運営者側の表現の自由と対立しながら、これにより本件各記事が削除され、原告の人格権の侵害状態が除去されるという効果を発生させることになるのであるから、単純かつ画一的に行われるものとはいえず、新たな権利義務関係を発生させるものである。
したがって、本件において、被告がウェブサイトの運営者に対して本件各記事の削除を求めることは、「法律事件」に該当する。
(3)「法律事務」について
弁護士法72条本文前段の要件として、法律事件に関する「鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務」を取り扱うことが必要とされているところ、「その他の法律事務」とは、法律上の効果を発生、変更する事項の処理や、保全、明確化する事項の処理をいうと解されている。
上記1で認定した事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各記事の削除のために、別紙削除フォーム1ないし3のような各ウェブサイトが設けた通報用のフォームを用いて、ウェブサイトの運営者に対して「ウェブサイト上に投稿されたコメントにより迷惑を被っている」旨の情報を提供し、削除を依頼したものと認められる。
この点について、被告は、単に通報用のフォームを用いて、情報を提供し、削除を依頼しただけであるから、このような業務は「法律事務」に当たらない旨主張する。
しかしながら、被告が用いた通報用のフォームは、別紙削除フォーム1ないし3のように削除対象URL、削除を求める理由等を入力し、ウェブサイトの運営者に対して迷惑を被っている旨の情報を提供すると、原告の人格権行使の結果としてウェブサイトの運営者側で各記事を削除するというものである。そのため、当該フォームに入力して迷惑を被っている旨の情報を提供する行為は、原告の人格権に基づく削除請求権の行使により、ウェブサイトの運営者に対し、削除義務の発生という法律上の効果を発生させ、原告の人格権を保全、明確化する事項の処理といえる。
したがって、本件各記事の削除のために被告が行った上記の業務は「その他の法律事務」に当たるといえ、被告の上記主張を採用することはできない。
(4)「業とする」ことについて
「業とする」とは、反復的に又は反復の意思をもって法律事務の取扱い等をし、それが業務性を帯びるに至った場合をさすと解すべきである(最高裁昭和47年(オ)第751号同50年4月4日第二小法廷判決・民集29巻4号317頁参照)。
前提事実(1)のとおり、被告は、「誹謗中傷クリーニング」と称して、インターネット上のネガティブ情報への対処を業務として行い、上記1(2)アのとおり、見積書兼申込書、業務委託契約書及び秘密保持契約書等の定型文書を作成していたことからしても、上記法律事務の取扱いを反復的に行っていたことは明らかである。したがって、被告は、上記法律事務の取扱いを業として行っていたといえる。
(5)「報酬を得る目的」について
「報酬」とは、法律事務の取扱いのための対価をいい、額の多少や名称を問わないが、法律事務の取扱いとの間に直接的又は間接的に対価関係が認められることが必要であると解される。
前提事実(3)のとおり、被告は、本件契約に基づき、本件記事1ないし10の削除業務の対価として、原告から金員を受け取っているから、被告には、「報酬を得る目的」があるといえる。
(6)まとめ
以上によれば、本件契約は、弁護士法人でない被告が、報酬を得る目的で、かつ、業として、原告の法律事件に関して法律事務を取り扱うことを内容とするものであり、全体として、弁護士法72条本文前段により禁止される行為を行うことを内容とする契約であるといえる。
3 原告の被告に対する不当利得返還請求について
(1)原告の請求について
上記2のとおり、本件契約は、全体として弁護士法72条本文前段により禁止される行為を行うことを内容とするものであるから、その余の原告の主張(本件記事10に係る行為が「周旋」に当たるか)について判断するまでもなく、民法90条に照らし無効となる(最高裁昭和37年(オ)第1460号同38年6月13日第一小法廷判決・民集17巻5号744頁参照)。
そして、前提事実(3)によれば、原告は、被告に対し、本件契約に基づき、本件記事1ないし10の削除業務に係る代金として合計49万8750円を支払っているから、当該金員につき、原告の損失、被告の利得及び損失と利得との間の因果関係が認められ、被告の利得について法律上の原因が存在しないから、上記金員は被告の不当利得
となる。
したがって、原告は、被告に対し、不当利得金49万8750円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成28年2月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。なお、原告は、訴状送達の日である同月24日から発生する遅延損害金の支払を求めている。しかし、不当利得者の返還義務は期限の定めがない債務であって、債務者は履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負うところ(民法412条3項)、本件において、訴状送達の日より前に原告が被告に対して当該債務の履行の請求をしたと認めるに足りる証拠はない。そのため、訴状送達の日から発生する遅延損害金の支払を求める部分については理由がない。
(2)被告の主張について
被告は、原告は被告が行う事務内容を認識しながら、被告に対して本件契約に基づく代金を支払ったのであるから、当該給付は不法原因給付又は非債弁済に該当し、原告は被告に対して不当利得の返還を請求することはできない旨主張する。
確かに、上記2で判断したとおり、本件契約は弁護士法に違反するから、それに基づいて支払った代金は、不法原因給付に当たる。しかし、契約成立に至った経過において、給付者に多少の不法の点があったとしても、受益者にも不法の点があり、前者の不法性が後者のそれに比し極めて微弱なものに過ぎない場合には、民法90条及び708条の適用はなく、給付者は受益者に対して、既に交付された物の返還を請求することができると解するのが相当である(最高裁昭和27年(オ)第13号同29年8月31日第三小法廷判決・民集8巻8号1557頁参照)。
本件において、甲15及び弁論の全趣旨によれば、被告が本件契約の誘因としてインターネット上の記事を削除する業務について広告を掲載し、それを見た原告が被告に対し記事の削除について問合せをしたことが認められる。また、上記2で判断したとおり、被告は、業として弁護士法に違反する行為を行っていた。これらの事情に照らせば、原告が、自ら被告に対して問合せをして本件契約を締結したという点において不法原因に関与しているとしても、不法原因は専ら被告の側にあるといえるので、被告の不法原因給付に関する主張は採用することができない。
また、原告が、本件契約に基づき本件各記事の削除業務に対する代金を被告に支払った際に、本件契約が弁護士法72条に違反し無効なものであることおよびその結果として代金支払債務が存在しないことを知っていたと認めるに足りる証拠はない。そのため、原告の被告に対する報酬の支払は、非債弁済には当たらない。
したがって、被告の非債弁済に関する主張も採用できない。
4 争点2(被告の原告に対する不法行為の成否)について
(1)弁護士法違反行為に加担させたとの主張について
原告は、被告により、違法な行為に加担させられ、遵法意識を傷つけられたため、精神的苦痛を被ったのであるから、原告に対する不法行為が成立すると主張する。
確かに、上記2のとおり、本件契約は、弁護士法に違反し、無効な契約である。しかし、原告は、被告に対し、自ら本件各記事の削除を依頼して本件契約を締結したのであるから、結果的に本件契約が弁護士法に違反する違法で無効なものであったとしても、本件契約を締結した被告の行為が不法行為に当たると評価できるものではない。
(2)適切な権利行使の機会を奪い人格権侵害状態を継続させたとの主張について
原告は、被告の行為により、原告の人格権を侵害する記事の削除をすることができない状態が約4か月継続し、その間、大きな精神的苦痛を被ったと主張する。
しかし、被告との間で本件契約を締結したとしても、原告が他に弁護士に依頼するなどして、仮処分を申し立てるなどの行為をすることが何ら妨げられるわけではないから、本件契約を締結した被告の行為が不法行為に当たるとはいえない。
(3)まとめ
上記(1)、(2)のとおり、被告の行為は原告に対する不法行為に当たらないから、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は認められない。
第4 結論
以上によれば、原告の請求は49万8750円及びこれに対する平成28年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこの限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。